月の城が浮かんでいたはずの月夜をみながら、やるせない思いに駆られる小狼。そこに背後から、期せぬ声が聞こえる。先ほどまで刃を交えていた相手、黒鋼だった。
共に次元を移動しながらも、小狼たちとは時期をずらして修羅ノ国の夜叉族たちの元に落とされた二人。瞳が本来の赤と蒼ではなく、漆黒の色を呈していたのも、彼らの中に居たからだった。小狼の剣技の上達を望む黒鋼は、本気で彼の元へ挑んでこられるよう素性を隠していたのだ。
黒鋼の配慮に感謝する小狼。そこに、目を覚ましたさくらが駆け寄ってきた。
手にした羽根が、とけ込むようにさくらの身体へと取り込まれる。
そのとき、モコナの体から翼が広がる。目的を果たした後の、次元移動。もう離ればなれにならないよう、皆をしかと抱きしめるファイ。
その様子を見た倶摩羅は、彼が勘ぐっていた通り二人が夜叉族と通じていた確たる証拠とばかり怒声をあげる。
真実を知る小狼は、冷静に彼に言い残す。
「違います。…もしそうだとしても、二人の王はもういません。
もし二人の王の亡骸か形見の一部でも見つかったら、どうか離さず一緒に葬ってさしあげて下さい。」
その言葉を、複雑な顔をしながらも神妙に受け止める倶摩羅。どうやら、彼も戦いの真実を知っていたようだった。
次元を超えて再び見えてきたのは、修羅ノ国へ飛ばされる前にいた世界、紗羅ノ国。しかし、遊花区の女たちと陣社の男衆がいがみ合う気配はない。違和感を感じる彼らが次に目にしたものは、晴れ衣装に身を包んで並び立つ陣主・蒼石と、遊花区の主人・鈴蘭の幸せそうな姿だった。
婚儀のめでたい席の中、特別に開帳されたご神体。「互いに離さぬように」と伝えられるその像は、阿修羅と夜叉の像だった。形を変えて、想いが満たされた二人。そこに、モコナがそばに添えられていた何かを指さした。それは、前に紗羅ノ国で小狼とさくらが身につけていたウィッグと髪飾りだった。いったい、修羅ノ国と紗羅ノ国との間には、どのようなつながりがあったのだろうか…。