宴の翌日。白昼になっても、さくらは目覚める気配がない。
元来の寝坊のせいか、記憶の羽根が足りないせいなのか。
ずっとそばで付き添う小狼の元に、阿修羅王がやってくる。昼食の席へと誘う王に、素直に従うモコナ。不安がる小狼に、王は話しかける。
「二人は私が招き入れた客人だ。この国のものには、指一本触れさせん。」
阿修羅王が統べる、修羅の国。月の城で闘った相手、夜叉族がどこからやってくるのか?…少なくとも近隣ではない国から、阿修羅王達と同じく月が中天に上りきるまでの間のみ招き入れられる。遙か昔から対立し合うその理由は、「あの城を手に入れた者は望みを叶えられる」という伝説から。
「望みのない者などいない。もし『自分には何の望みもない』という者がいたら、それは己の心の奥を知らぬだけだ。」
では。小狼は尋ねた。「…貴方の望みは、なんですか?」
はぐらかすような笑みでかわす阿修羅王。返す言葉で小狼に、旅の理由を問う。
すべてはさくらの羽根を取り戻すため。
その羽根が、月の城にある、かもしれない。
確信はない。が、小狼は意を決して阿修羅に請う。
「おれを月の城に連れて行って欲しいです。」
誠意と覚悟を秘めた瞳。それを見た阿修羅王は、一つの決断を下す。
次の夜。側近の倶摩羅の言を聞かず、軍に随行する小狼。鎧を纏い、軍馬にまたがる彼の前に現れた敵軍。瞬く間に目前の兵の首が飛ぶ。崩れた骸の先にある武士の姿。…それは紛れもなく、これまで共に修羅場を駆け抜けてきた戦友、ファイと黒鋼であった。