トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.35−戻らない対価

 満月の、桜都国の夜。
 路上で襲いくる鬼児たちを倒したその時、建物の屋上に現れた影。
 二人も小狼たちと同じ「鬼児狩り」を職に選ぶ、猫依譲刃と志勇草薙、そして譲刃と常に行動を共にする犬鬼だ。
 彼らは小狼たちの腕を褒めたたえるが、同時にまだ小狼たちが知らなかった事実を教えてくれた。
 それは、桜都国で小狼たちに付けられた「名前」。
 偽名で構わない、という言葉を真に受けたファイは、名前をなんと『絵』で記したのだ。こうして付けられた名前は
・黒鋼 → おっきなワンコ
・小狼 → ちっこいワンコ
・ファイ→おっきいニャンコ
・さくら→ちっこいにゃんこ (だから喫茶店の看板も「ニャンコ」になった)
それは、桜都国の文字を知らないファイが思いついた苦肉の策だったのだ。
 小狼たちの後に、ファイとさくらが営む喫茶店に訪れた譲刃と草薙。たまたま焼き上がったチョコケーキを口にして、素直に味の良さを評価する。
 鬼児は強さによって格付けされている。強いものから順に『イ・ロ・ハ…』『一、二、三…』と呼ばれている。昨夜小狼たちを襲った、『ハの五段階』と呼ばれる鬼児は、中間よりもやや下のクラスと知るが、本来家に侵入できる鬼児は「ロ」の段階以上。そのことに草薙と黒鋼がいぶかしむ。
 そこに、犬鬼がぴくりと反応する。犬鬼は鬼児のにおいを感知する。一方、モコナはまだ羽根の波動を感知ながらも、正確な場所を知ることが出来ずにいる。そんなモコナを励ますように手を取る小狼。その横に、胸中複雑なさくらの姿があった…。
 さくらは、悔いていた。記憶の羽根を失った後に目覚めたとき、小狼に対し『知らないひとなのに?』と問うてしまったことを。身の危険を顧みず、さくらのために身を粉にするその姿に、さくらは問いかける。
「わたしと小狼君っていつ会ったの?
 もしかして小さい頃から知ってて、すごく大切なひとなんじゃ……!」
ついに失われた記憶の鎖がつながりかけたそのとき。何かが彼女の中ではじけちったのだ。
 「対価」というものは、そう甘いものではないようだ。誰かがさくらと小狼の過去を語ったとしても、そしてさくら自身が自らの力で記憶の糸をたぐろうとしても、決して戻ることのない『対価』。小狼は、その残酷な宿命…「すべての記憶が取り戻せても、その中に彼の居場所がない事実」に気づいていた。そして、それでも彼は彼女のために羽根を取り戻す、鋼の覚悟をしていたのだった。