《xxxHOLiC・戻》第38回
ヤングマガジン:2014年32号:2014.07.07.月.発売
どんな存在もひとがどうとらえるかであり,あたしが「ナニモノ」かを決めるのはあなた,と侑子に言われ,君尋は口を真一文字に結んだ。
「なら… おれは」「選ばなければいけませんね」「これからを」
侑子がいた時間に戻れたのでも侑子が戻ってきてくれたのでもない。
風呂敷包みを床に置き,君尋は話しつづけた。
でも,ここに在(い)る。どんな存在だとしても,目の前にいる。元の世界に戻れば,まだ,いない。
体をくの字に曲げ,握りしめた左手首を右手でつかむ。
戻るのか戻らないのか自身が決めればいいと言われ,君尋は,目を侑子に戻した。
「侑子さんは… 教えてはくれないんですね」
「例え,どんな選択であろうと」「貴方が心で選んだものなら」「それが 貴方にとっての」「真実(ホントウ)だから」
侑子が言いきり,目を固く閉じて下を向いていた君尋は,つらそうに相手を見た。
そう答えるからこそ,その人が侑子さんでないとは思えない,思いたくない。
君尋がそう吐露し,ともに目を閉じ,沈黙が流れる。
「…戻ります」「今 おれを待っていてくれる人達がいる次元(ところ)へ」
目を開いて君尋は告げたが,また,視線が下に落ちる。それでも,戻ってあなたをあの店で待つ,と語る。
「間違ってますか …おれ」
「例え,何を選んでも 間違いではないわ」「ひとはずっと選び続けなければならない」
侑子は,話しながら立ち上がり,
「自分の行く末を」
そのひとことは,同時に君尋が言ったことばと一致した。
そして,君尋の前に現れる,明暗2枚の―ひとがた〔人形〕ならぬ―とりがた〔鳥形〕。
ここで使うべきだから,あの時は「その価値が分からない今は使わない」ことを選んだのだ,と君尋は合点した。
いきなり,暗い色のほうがうなるような音を立て,明るい色のほうはかき消えた。次の瞬間,残ったほうが君尋の足下で大きく広がる。山狗(ヤマイヌ)を統べるものからの対価,一度だけ帰りたいところへ案内する先遣(さきやり)が,発動した。
戻っても元には戻れない。侑子がまたいてくれる幸せとまた離れるつらさを知ってしまったから。そう悲しむ君尋に,侑子は両手を差しのべ,そして抱き寄せた。
「それでも」「また逢えて 幸せだったわ 四月一日」
君尋の目から涙があふれる。侑子の背中に回した手で抱きしめ,叫んだ。
「侑子さん……!」
空(くう)を抱きしめるように上方にのばした両腕が胸の上に落ち,君尋は,涙の流れる目を開いた。
カッターシャツの静が,枕元の椅子に腰をかけ,黒モコナが,枕の横にちょこんといる。マルとモロは,足元のふとんに手をついている。そこは,寝室のベッドだった。
「…ひまわりちゃんは…」
「自宅だ おまえとの約束を守って あいつは4月1日以外はここに来ない」
体を起こした君尋は,床にある品じなを見た。塗りの箱,明るい色のほうの先遣,小さな巾着袋,そして大きな風呂敷包み,その4点を。
「これを 『彼』に送る」「頼めるか」
「おう 任せろ」
胸をたたくモコナ。
君尋は,ベッドから降りながら,並んでいる2人の頭に手をのせる。
「2人にも心配かけたな この格好のまま向こうのメンツに会うのも 格好つかねぇか」「マル,モロ 着替え手伝ってくれるか」
「あい!」「準備してくる!」
声をそろえて答え,かけて行った。
「…戻って来たんだな」と,静。
「それが おれの選んだ先だから」
つぶやいて寝室の戸を両手であける君尋の後ろで,静の目は,左手の中のタマゴに。
「願いを叶えよう」「集めたものを 小狼(シャオラン)に」
君尋は,高らかに宣言するのだった。