《xxxHOLiC・戻》第20回
ヤングマガジン:2013年50号:2013.11.11.月.発売
2枚の先遣の前に静と並んで立つ君尋。先遣のその向こうからは,ソファにすわっている侑子の仮面のような顔が,こちらを見つめている。圧迫感の中で,おろしていた右手を上げて指先を先遣へと……。
“リリリリン”
突然,電話機の音が鳴り響く。
“はっ”君尋の意識が日常世界に戻った。
「ちょっと出てきます!」
廊下をかけていってしまう。
残った2人は顔を見合わせる。侑子が言った。
「…選んだわね 四月一日は」
寺の本堂の横である。君尋は落ち葉を竹ぼうきで掃いていた。
「さぼってんじゃねぇぞ」
熊手をかついだ静の声に,
「さぼってねぇ!」
「ってか,なんで おまえん家(ち)の寺まで 掃かなきゃならねぇんだよ!」
「おまえが銀杏が欲しいつったんだろうが うちの」
静のことばに,君尋の口ぶりもやや弱まったが,庭全部を掃き清めるのは明らかに過重労働ではと,ほうきを振り上げ,さらに詰め寄る。言い合いが続く。
そのとき,落ち葉をふむ音がした。あたりを見回しているその人に,静が声をかける。
「どうか なさいましたか」
右手に買い物バッグをさげた年配の女性は,2人のほうを向いた。さい銭箱があるかと聞かれ,静は置いていないと答えるが,がっかりしたようすに,門を出てしばらく行くと稲荷神社があると,指でもさし示しながら説明する。
「有難うございます」
門のほうへ行きかけながら女性が礼を言ったとき,君尋は,左手の親指と人さし指ではさみ持つ何枚かの硬貨に気づいた。
「…百円玉?」
同時に,心がひやっとした。
女性の後ろ姿を見ながら,何か言いたそうな君尋のようすに,静が目で促す。
「…いや…」「気のせい…だと 思う…」
わずかに冷や汗をかき,口から押し出したことばは,それだけだった。
「ほんっとうに 昨日だけじゃなく 今日もこき使うつもりとは!」
「それも,自分は委員会があるから 先にいって庭掃除してろって 何様だ 百目鬼!」「ぜーったい あいつに銀杏はやらん! んでもって 無茶苦茶美味く作ってやるからな!」
そんなことを言いながら鞄をさげて歩いていた君尋が,公園の前にいる女子高生らしい制服の2人に,目をとめた。おのおの車止めの杭に腰をもたせかけ,距離があって内容は聞き取れないが,会話がはずんでいるようだ。
向かって左の子が,デイパックから財布を取り出すと,硬貨3枚を左手に取り,右の手の平を差し出した。右の子は,自身の財布から百円玉を3枚取って相手の手の平に置き,その右手を返して手の平を上にする。すると,相手が左手の硬貨をそこに置く―やはり百円玉だ。どちらも,笑みを浮かべつつ困ったような表情も見せている。左の子の右足は,長靴下の代わりに包帯が巻かれていた。
そのとき,君尋の心にひやっとした感じが……。
2人の横にさしかかっても“ぞく”とした感じは消えず,困惑が続く。
{あの子達がお互いに渡してたの どっちも300円だったよな}
{特に汚れた風でもなかったし 古くもなかった}{どっちも300円だったのに}
{なんで交換したんだ?}
歩きながら,君尋の目は,まだ2人をとらえている。