《xxxHOLiC・戻》第19回
ヤングマガジン:2013年48号:2013.10.28.月.発売
校庭の木立の中,君尋が,竹ぼうきで落ち葉を掃いている。
「さぼってんじゃねぇぞ」
静の声に急いで振り向き,
「さぼってねぇ!」
「手,止まってただろ」
「考え事してたんだよ!」
近づいてきた静は,何を考えていたと聞く。
「侑子さんに」「…言われて」
「…何を」
「もう…」「って あ」
言うことがあったのを思い出し,店に寄れという侑子のことばを伝える。
「わかった」「夕飯はいらないと 家に連絡する」
思わずほうきを握りなおす。
「食って帰る気 満々かよ!!」
帰りに買い物するから重いものは全部持てと,行きかける静に言いはなつ。そして,ふたたび,地面を掃きはじめた。また酒が減るなどと,ぶつぶつ言いながら……。
「ただいまー」
元気な声が出迎える。
「四月一日お帰りー」と,マル。
「百目鬼お帰りー」は,モロ。
片手に鞄,片手に買い物袋2つを持ち,君尋はたたきから中へ。静も両手に荷物である。
「味醂割ったら 承知しねぇぞ てめぇ」
君尋は,静に早口で言うと,指示を出す。
「マル,これ 冷蔵庫の中に入れてくれるか 2段目な」
静には,
「おまえが 責任を持って 運べ」
言われた静は,すらすらと,
「野菜は冷蔵室」「他は 1段目と3段目」
「百目鬼 すごーい!」
などと言いながら,マルとモロは静と台所へ向かう。君尋はつぶやいた。
「あんだけ教えこみゃ 阿呆でも覚えるか」
「おかえりなさーい」
縁側に出した1人用ソファでお茶を飲んでいた侑子が,にこやかに言った。
「ただいま って」「あ」
君尋は,物干しざおに何もかかっていないのに気づいた。マルとモロが取りこんでいつもの位置にしまったと聞き,
「根気よく教えれば 出来るようになるもんなんすね」
右手は鞄のつり手を持ったまま,両のこぶしを握りしめた。侑子に子どもの成長を喜ぶ母みたいと笑われ,2人も産んでないと返すが,
「あら じゃ 1人なら産んで」
「ねぇっす!!」と,かぶせる。
「最近,ツッコミが喰い気味ねぇ」
侑子は,饅頭をくわえた。
静が,銘々膳で急須と湯飲み2個を運んで来る。
「すっかり 百目鬼君のお運び姿も 板について来たわねー」
湯飲みに茶をついだ君尋が,不満顔で断じる。
「喰って,飲んで ばっかなんすから 運ぶのと片付けくらいは当然です!」
「用があると 聞きましたが」と,静。
2人に,と言って,侑子が軽く握った左手を開くと,彼らの間にそれがふっと現れた。
「夜雀と山狗を統べるものからの礼よ」
「これ… 先遣(サキヤリ)…」
君尋がつぶやく。あの夜2人の案内に夜雀が使った「とりがた」が色違いで2枚,目の前に浮かんでいた。侑子が,明るい色のほうから説明する。
「こちらはね」「夜雀からの礼 一度だけ 行きたいと願うところへ案内してくれる」
暗い色のほうは,
「こちらは 山狗を統べるものから 一度だけ 帰りたいと願うところへ案内してくれる」
ひとつを選んでと言う,その表情は,固いものになっていた。
「俺達が ですか」と,君尋。
「そう」「どちらか 必要とするほうを」
君尋が黙っていると,静が口を開いた。
「おまえが 先に選べ」
「え…」
君尋は,あらためて,先遣を見つめた。