《xxxHOLiC・戻》第12回
ヤングマガジン:2013年33号:2013.07.13.土.発売
「おれに」「言ってたんでしょうか」
焼酎をついだその持ちかたのまま両手で瓶を支え,つぶやくように言って,君尋は侑子を見た。
「四月一日は どうだったの」
「え…?」
「戻りたかった?」
変わらず,じっと相手を見つめている。
「…どこに ですか」
君尋は,とまどうばかり。
「どこだと思う?」
一升瓶を縁側に置き,あらためて切り出した。
「ひょっとして」「侑子さん,おれに 怒ってますか」
{…店に逃げ込んだ時の 侑子さん}「…ちょっと 怖かった,です」「今も」
「今も?」
侑子は,目をそらして前のほうを見やった。
試されているようだとうつむいて話す君尋。
いきなり,侑子がその首に右手をかけ,ぐいと引き寄せた。驚く君尋にかまわず引き倒し,ひざの上にのった頭に左手を添える。
「戻るべきかどうかは 貴方が決めればいいわ」「誰にも惑わされず」「貴方自身が」
「分からないです」「おれには 何の事なのか」
「もし戻っても 戻らなくても」「貴方は『進む』でしょうから」
額の上をおおうようにした左手を指を動かしながらのけると,君尋は眠りに落ちていた。
そこへ,門のほうから歩み寄ってくる着流し姿は,静だが……。
「…貴方は どの貴方でも」「いつもそうするんですね」
「結局,最後は 必ずこいつ自身で選ばせる」「それが一番 貴方にとって難しいのに」
「それは 貴方もでしょう」「こうやって 四月一日が選ぶのを待っている」「本当は 貴方が決める事も出来るのに」
ひざ枕の君尋に目を戻す侑子。左手は,その頭にかざしたままである。
2人のすぐ前まで来た静は,無言で君尋の顔に目をやった。
「おれは」「決められなかっただけです」
右手を君尋の右肩にのせた侑子が,見上げる。
「四月一日の決断を待つ」「それが一番 貴方にとって難しいのに」
勧められて,静は彼女の横に腰を下ろす。
侑子は,左手で彼の頭を引き寄せ,左肩にもたせかけた。右手は君尋の右肩にかけたままである。
「いい子」「みんな,いい子」
静の目も閉じられた。
店の時間が,ただ,過ぎていく……。