トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第1回

《xxxHOLiC・戻》第1回
  ヤングマガジン:2013年14号:2013.03.04.月.発売
 
│ 世に不思議は多いけれど
│ どれほど奇天烈
│ 奇々怪々なデキゴトも

│ ヒトが居て
│ ヒトが関わり
│ ヒトが望むからこそ

│ 消えて生まれて
│ また消える

│ マヤカシ
│ マボロシ
│ ナニカノ
│ シ

│ それも また

│ ヒトが認め
│ ヒトが拒み
│ ヒトが紡ぐからこそ

│ 巡り巡って
│ また戻る

│ すべてはヒトの願い故
 
「侑子(ユウコ)さーん」
廊下を走ってきた君尋が,戸のかげから顔をのぞかせた洋間。背もたれつきの長椅子には,侑子が乱れた着物姿で仰向けに寝ころがっていた。
「また だらしない格好してー」
君尋とのやりとりもそこそこに,侑子の関心は,右手で通学かばんといっしょにさげている紙袋に。中身は,四角いケーキの箱。みごとなホールケーキだった。
「やったー!」「四月一日(ワタヌキ)印のチーズケーキ!」
バレンタインデーにもホワイトデーにも自作ケーキ,と不服そうな君尋に,侑子が返す。
「あら,あたしだってあげたわよ」
「作らせてあげた」「でしょ」と,君尋
「ほほほ 感激のあまり泣いちゃってもいいのよ。許すわ」
「泣きません。」
 
レアチーズケーキには白ワイン,辛口のスパークリングワインもなどと,ケーキをながめて,侑子は好きなことを言っている。
「ま,喜んでくれるんならいいんですけど」と君尋が息を吐くと,
「更に喜んで食べるひとが来るわよ」
そのとたん,プルルルとかばんの中から鳴り響く。
携帯を手に取り,見た画面には,「ど阿呆」!
 
「いらっしゃいませー」
玄関で,マルとモロがお出迎え。君尋と同じ詰めえり制服の静が,風呂敷で包んだびんを左手でかかえて立っていた。君尋が顔を出すと,静は,2人をまとわりつかせたまま,さっさと歩きだす。勝手にあがるな,願いがないのに店(ミセ)に用はないだろうという君尋の文句に,ぴしと返す。
「ある」
「そ」「ちゃーんとあるわよね 百目鬼(ドウメキ)君」
侑子のいる部屋の前だった。風呂敷包みを受け取って,侑子は,早速包みをあける。
「やったー! 百目鬼君からシャンパンー!」
「檀家からの,頂きものですけど」
 
縁側でくつろぐ侑子と静そして君尋。侑子はにこにこ顔だ。
「冷えたシャンパン!」「四月一日のチーズケーキ!」「っおいしぃぃいい!!!」
しかし,角盆にグラスを置いた侑子の顔からは笑みが消えていた。
「用があるのよね あたしに」
「はい」「願いが,ある」
  「おまえ,ないってさっき」君尋が口をはさむが,
「そうです」かまわず静。
侑子に最近のツッコミが不調だとなげかれ,静にも指摘されて,君尋はぶぜん。
「で」「願いがあるのは だぁれ?」
新たにシャンパンをついだグラスを手に取ったその目は,相手を見すえていた。
 
「檀家さん,ねぇ」
侑子が,半開きの障子の向こうでマルとモロに手伝わせて着替えをしている。廊下で帯をたたんだりと手伝いながら,君尋はつぶやいた。
「今,百目鬼君のお寺には 憑き物落としが出来るひとがいないからね」
清浄な気を持つ静の対応でも事態は好転しなかっのだろう,と言う。
「それに」「この店まで辿りつけたという事は 縁(エニシ)は,もう 繋がっているから」
「そして」「繋がった縁は巡り巡って また戻る」
着替え終わった侑子が,部屋から出た。
「すべては,ヒトの願い故」
そのとき,一瞬“ぐら”と来て,君尋は,右手で頭を押さえた。
「宿酔(ふつかよ)い」などと言う侑子に言い返していると,きぃと玄関のドアの音。
「客が来たわ」
2人は,そちらのほうを見やった……。