トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

第210話

《xxxHOLiC・籠》再開第6回(第210回)
  別冊少年マガジン:2010年12月号:2010.11.09.火.発売
 
質問はしていいかと尋ねる君尋に,水干姿の少年は偽名に免じてと4つを認め,問答が始まった。
「日頃使うものですか」
「否(いな)。」「一度置けば手を触れるべきではない」
「術具ですか」
「応(おう)。」「しかし 呪具(じゅぐ)ではないぞ 祈願の為のものだ」
「願い事はなんですか」
「厄除けや一族の安寧ぞ」
「靡(なび)いている旗の色が」「青 赤 黄 白 黒」「五色(ごしき)なのは関わりがありますか」
「応(おう)。」「共にあるのが正しい姿よ」
思案顔の君尋が,笑みを浮かべた。
「最後に」「もうひとつ」
名に免じてなら4つとあと1つという理屈を,むっとしつつも認める少年。
「貴方を置くべき場所に」「光はとどきませんか」
「応。」「光は届かぬ所に我は在るべきぞ」
 
「貴方は」「『弊串(へいぐし)』ですね」
かすかに笑みを浮かべたその姿が,ちぎれるように欠けていく……。
 
景色が戻った。君尋は,箱のふたを手で持ち上げたその時の姿勢のままだ。目の前の箱には,飾り扇や五色の短冊などが,無造作に入れてある。
 
「弊串だったのか」
「ばらされちまってるからな 教授が分からなかったのも無理はねぇよ」
酒を飲みつつ話す2人。君尋は,2面の飾り扇を広げて合わせ,本来の形を示す。
「弊串は,建物の上棟式の日に棟木(むなぎ)に取り付ける飾りだ」「その家の家族の幸福や厄除けを祈願する為にな」
「形は色々で 呼び名も,へいぐし へいごし,と様々だが 多くは五色の紙が付属している 『五行思想』からだな」
「青が木 赤が火 黄が土 白が金 黒が水を現す,か」
静が応じる。
五色の旗があったのと,光が届かない場所ということで,わかったと君尋。ものすごく由緒ある建物の弊串だったようで,大事にされていたからこそ,ひとの姿で話せたのだろう。もし答えられなかったら,
「ま 今ここに座ってられたか怪しいなぁ」
そして,組み合わせて本来の形にした弊串を手に取り,モノとして扱える代物(シロモノ)じゃない,と言う。
「付喪神(つくもがみ)か」と,静。
「そう言っても構わないだろうな」「『在るべき場所に在りたい』らしい」
弊串としてそれもそれ相応の建物の棟木に置くのでないと納得しないだろうと話す君尋に,静は,少し考えてから,知り合いの寺が本殿を改築していると言う。
「いい寺か」
「おう 歴史もあるし住職もいいひとだ」
突然,弊串からわき起こる「気」。2人はハッとする。
「‥‥応。 とさ」と,君尋。
教授には自分から説明すると言う静に,対価を問われ,君尋はしばし考える。
「その寺の上棟式に酒を持って行ってくれ 祝いにな」「同じ酒を店にも」
「分かった」
 
「じゃ 改めて飲むか」
言った君尋が,「え?」弊串を置いた箱のほうを振り向く。弊串へと何か流れた……。
なんと,ひさげ〔提子〕の酒が,一気に減っている。
「上棟式じゃなくても飲みたいんですね」
静も同意する。
「これゃ,かなりの酒豪らしい」
「百目鬼 まじで式にはいい酒用意しねぇとな」
立ち上がり,杯もうひとつと酒の追加を持ってくると行きかけた君尋が,静を振り返る。
「なんだ」
「‥‥おまえの所の寺も改築予定あるか」
「いや ないが」
「寺っつうか 住んでる所‥‥」
「予定はないが」
「‥‥あ」「いや」
君尋は,考えるしぐさをしたあと,納得したようすで言った。
「すぐじゃない‥‥」「まだ もう暫く先の話だ」「由緒ある弊串も目に出来たし その時はおれが創ってやるよ」
「‥‥おう」
答える静に,付け加える。
「家と」「そこに住む家族を守る為のものを」