《xxxHOLiC・籠》第195回
ヤングマガジン:2010年5・6合併号:2010.01.04.月.発売
「さっきの『いらっしゃい』は手引きかい」
君尋に言われて,羅宇屋は頭をかいた。
「勘弁して下さい 別嬪さんにゃ弱(よえ)えんで」
女郎蜘蛛が店の結界の中にはいるために,それが必要だったのだ。
「左目もってのなら お引き取り下さい」
「それも素敵だけど」
「今日のわたしは」「お客よ」
通された小部屋で,女郎蜘蛛は,重ねたクッションに体を沈ませた。
「まぁ 狭い」「歓迎されてないのかしら」
「いえいえ」
グラスを2つ用意して現れた君尋は,あなたのために急いでしつらえたと説明する。クッションには管狐の毛が縫い込んであり,灯はすべて狐火。管狐との相性の悪さを逆手にとったのだ。
「こんなに狭いと貴方も火に捲かれるわよ」
「管狐の火はおれを傷つけたりしませんから」
「可愛くなくなったわね」
言いつつ,手渡されたグラスを口に持っていく。
「美味しい」
彼女が貴腐ワインを好きであることを知っていて,出してきたものだった。
「この店の店主ですものねぇ」「その店主にお願いがあるの」
「探して欲しいモノがあるのよ」
店にあるものではないと聞いて,この店からは出られないと告げた君尋は,今のあなたならほかに探す方法があるだろうと言われる。
「探してくれる?」
「対価を支払って貰えるなら」
彼女は,君尋の手のグラスをすっと取りあげると,ワインをじぶんの口に含み,正座している彼のひざにまたがって口移しでそれを飲ませた。手付け代わりと言う。
「それ 最初からおれの分だったじゃないですか」
君尋の顔は笑っている。
「やっぱり可愛くなくなったわ」
「女郎蜘蛛が?」
君尋にご飯をよそってもらいながら,静は言った。
「それでそいつ出してたのか」
君尋の首には,管狐が巻きついて,じゃれている。
「ああ 機嫌悪くて大変だよ」
「無月は女郎蜘蛛ヤなんだもんな」「大好きな四月一日いじめたから」
茶碗をかかえたモコナが言う。おかげでだいじょうぶだったと言う君尋のことばで,顔にキスをしまくる無月。
探しものの依頼と聞いて,静は尋ねる。
「受けたのか」
「仕事だからな」
そこまで話すと,君尋はかっぽう着を脱いで立ち上がった。酒とアテを問うモコナには,きっちり答える。
「台所に用意してある」「酒は宝物庫から焼酎な」
食べないのかと聞く静にあとでと答えて廊下に出た君尋は,マルとモロを呼んだ。
「水盆(スイボン),用意してくれるか」
「あーい」
抱きつく2人に目をやりながらつぶやく。
「仕事は早いほうがいいだろ」「今日は月も良い頃合いだしな」
「何を探すんだ」
静の問いに君尋は答えた。
「紅い 真珠」