トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

第182話

  ヤングマガジン:2009年26号:2009.05.25.月.発売
 
宙づりのまま,侑子は語りつづけた。
来たるべき日のためにあの店で願いをかなえつづけてきた,その日々も終わる。自分が消えれば,君尋の願いもかない,アヤカシを見ることも引き寄せることもない。
「そんな の 急に」
「店,どうするんですか」
涙を流しながら,君尋が訴える。
「おれ 頑張ったんですよ!」
例のお客も何とか元気になってくれて,これからも料理を教えてほしいと言っている。料理といえば,侑子さんお望みの梅干しも漬けてあるし,梅酒ももう飲みごろ。お酒も,百目鬼一人じゃ前より減らない……。
その間にも触手は侑子の体をどんどんおおっていく。
「侑子さん‥‥」「こんなの‥‥」「夢だって」「言ってください‥‥」
「四月一日に嘘はつけないわ」
「貴方は,あたしの大切なひとだから」
侑子の口調はあくまで静かだった。
触手は侑子の顔のまわりまで伸び,闇が彼女を飲みこむのも間近のようだ。
 
君尋は必死に叫ぶ。
「‥ま,待ってください」
「何かあるはずだ!」
「だって,侑子さん 今,目の前にいて! ちゃんと話せて!」
「‥‥逝っちゃ やだ‥‥」
涙が激しく流れ落ちる。
「‥‥その願い 叶えてあげたいけれど」「あたしには」「出来ないの」
「‥おれ 願い 叶えてないです」「侑子さんの願い」
「‥‥約束したのに」
そんな君尋に,侑子はやさしくことばを返す。
「あたしの願いは,ね」
「ただ貴方が存在(い)てくれる それだけで,いいのよ」
その顔は半ば闇の中。
「だったら その願いは」「おれが必ず叶えます」
「夢は 強く願えば叶うなら おれは,侑子さんとまた逢いたい」「だから」
「おれは店(ココ)にいて 侑子さんとまた逢えるのを 待ってます」
 
侑子を消し去った闇のうごめきを前に,君尋はたたずんでいた。