ヤングマガジン:2009年13号:2009.02.23.月.発売
花びらが風とともに吹きすさぶ中で,侑子の姿は着物のすそからおびただしい数の黒いチョウへと変わって消えていった。
「侑子さん!!」
君尋がわれに返ると,そこはふとんの中。仰向けに寝て,宙にのばした右手はにぎりしめていた。
体を起こして手を開くと,黒いチョウが飛び立ち,すぐに消えた。
「‥‥これも」「夢なのか」
「良く分からない夢なんてしょっちゅう見てるのに」「なんでこんなに怖いんだ‥‥」
静と歩きながら,君尋は,侑子が店のどこにも見当たらないと話していた。
「マルとモロにも全然会ってないし‥‥」「今朝はモコナもいなかったし なんか‥‥」
「まるでもう 会えなく‥‥」
そこでことばを切り,くちびるをかみしめた。
何か用があるんだろう,約束したから自分もできることをする,と自身にも聞かせるように言った。
「約束?」
いぶかる静に,わけを話す。
「侑子さんに叶えたい願いがあったら」「おれ 頑張るって」
「そうなる為にも」
君尋は,通学かばんといっしょに持った紙袋を見やった。
依頼人の家の前。門のインターホンで,おむすびを作って持ってきたことを告げる君尋だったが,「‥‥帰って下さい」の声。
「待って下さい!」「あの,これ受けとるだけ お願いします!」
しかし,スイッチを切ったような音がして,あとはボタンを押しても答えはなかった。
静が袋を見る。
「どうするんだ それ」
「メモ,入れて置いておくよ ここに」「あのひとの為に作ったものだから」
じっと見つめる静に,さらにつけ加える。
「食べてくれるまで作るよ」
「おれに出来るのはそれくらいだから」