ヤングマガジン:2009年12号:2009.02.16.月.発売
依頼人が出て行ったあと,顔を見合わせる君尋,小羽,ひまわりそして静。
「作ってんだろ 料理」
静の声に,笑顔に戻ったひまわりが続ける。
「きっと美味しいものが食べられるんだろうなって」「楽しみにしてたの」
「おむすびを‥ 作ろうと思って」と君尋。
「一緒に」「作ろ」
その手をにぎった小羽のことばで,君尋もみんなを見回し笑顔で言った。
「うん」「作ろう みんなで」
夜の庭。侑子と君尋がもうせんを敷いて花見酒をしている。
「生意気な事言ったから」と,依頼人が出て行ってしまったことをくやむ君尋。
侑子は,ひとは自分の中にないものには感じないから,彼女が君尋のことばに反応したのなら的はずれではなかった,ととりなす。
「それでも ‥‥聞きたくない事だったのかもしれない」
気にする君尋。
「それでも ‥‥聞いて欲しいと思ったんでしょう」
この店に入れたのは,依頼人にとって必要だったから。それも,彼女の抱えているものは自分よりもよくわかるだろうと,君尋にまかせたのだった。
ひとは出逢うべきときに出逢うのだと侑子は語る。
「すべては」「‥‥必然だから」
「そして ‥‥別れもまた同じ」
いきなり,君尋が侑子の手首をつかんだ。
「なぁに?」
「いえ,あの なんか侑子さんが‥‥」
説明はできないが,彼女の姿にふと感じた不安。
「四月一日は此処が好き?」
「‥‥はい」
「ここは来るべき日の為に創られたものだけど」
一瞬の風が花びらを巻き上げる。
「貴方が留まる理由のひとつになるなら」「‥‥よかった」
「その着物‥‥ 前に‥‥ 見た」
君尋は,そのときになって,アゲハの帯の着物姿に覚えがあると気がついたのだ。
「侑子さん,同じ服着てた事ないのに 前 確か‥‥ あれ‥‥夢で‥‥」
「そう 夢はもう終わる」
侑子の声をかき消すように再び風がおこり,花びらをまき散らしていった。