ヤングマガジン:2008年46号:2008.10.11.土.発売
ひとり宝物庫の中にいた侑子が,まわりを見回しながら口を開いた。
「ここだけは守らなければ 来るべき日まで」
1本の杖に指で触れる。
「以前,四月一日が見つけた杖は 模造品(レプリカ)だったけど」「これは唯一 真実(ホントウ)の『星の杖』」
クロウの魔術を受け継いださくらが対価として渡したのだ。
「ひとつであるものが ふたつに分かれた」「愛する子供達の為に」
「四月一日は 小狼が時間を巻き戻す事を望んだ時に産まれた」「もう一人の小狼」
それは,写身サクラが持ち帰った卵が2つになったのと同じことだった。2つの違ったもの,育んだ者の望んだままに小鳥の産まれた卵と大事な役割を与えられ元のままの卵。
2人が名前も姿も異なるのは,どちらも消さないため両親が望んだことだったと……。
たなの小箱から取り出したコンパクトをあける侑子。中には小狼が玖楼国の家に置いていたのと同じ家族写真―しかし,真ん中の小狼は同じかっこうをした君尋に置き換わっている。
「小狼は姿を変え 名字を変え」「その姓名(な)に託してあの子を隠し続けた」
「ワタヌキ」の読みの由来はその日に綿入れの着物から綿を抜くから。古い呪術で,抜いた綿を身代わりにするのだった。
「それでも,あの子を守れるように」「偽りの術名(ナ)の中に自分の誕生日を籠めた」「名と誕生日は大切なものだから」
この写真のこともここに書かれた本当の名も本人は知らないからこそ,飛王に気づかれ利用されることがなかった。ただ,本来あるはずでない存在ゆえに,不安定で危うい。それは,彼自身も記憶はなくても心と駆で知っていると……。
「そして ふたつに分かれた道筋で」「己が存在する世界では両親が自分を庇って亡くなった事も」
「だから尚更『此処に居てはいけない』と思っている」