切り取られた時間の中の、切り取られた空間。
その静寂を打ち破る、一対の足音。その主は…、写身として生まれたもう一人の小狼だった。視線が、合う。その矢先、小狼の前に二人の男…ファイと黒鋼が進み出る。
高まる、緊迫感。ほどなく、二人が警戒する元凶が、次元を切り裂き現れる。
その男の名は…飛王・リード。
小狼、ファイ、黒鋼の3人に、決して忘れられない悔恨の瞬間を刻みつけた主。
次元と時間を超えた場所で、彼らの旅を見てきた飛王。彼は知っていた。小狼が犯した禁忌の結果、時間と空間はその摂理を失いつつあった。それは未来だけでなく、すでに過ぎ去った時間でさえそうであった。しかし、小狼の願いは「この瞬間を」やり直す事。それゆえ侑子は願いを叶える際、流れる時空からこの刹那を切り取り、置き留めた。それがさらに、摂理の崩壊を促すことになったとしても…。
崩れゆく世界を、写身の右目を通して知った上でなお願う事を止めなかった小狼。そしてなお、この瞬間、この場所に彼が戻ってきたことに満足げな笑みを浮かべる飛王。邪悪に満ちた言葉で小狼を称(たた)えようとしたその時、一陣の鎌鼬が彼を襲う。
「…うるせえ。」
先手を取って鋒を振るったのは、黒鋼だった。
…栄光なき戦いの、火蓋が切られた。