Chapite.194−姫を呼ぶ音色
※ここでの「小狼」は「『小狼』」(写身ではない存在)を指しています
鈴の音。遺跡の、水場から。呼んでいるみたい…、わたしを。
次の瞬間、フラッシュバックする光景。小狼が、必死にわたしを、追っている…。
「小狼!」
突然叫び声を上げて倒れるさくら。「小狼…、来ちゃ…だめ…。」こう呟いて、彼女は意識を失う。
異変を察した彼女の父である国王、藤隆。こわばったさくらの体を安らげたあと、彼は小狼に状況を尋ねる。
さくらは…、夢を視ると時折意識を失うことがあるという。彼女の言葉から推測すると、先見した未来は明日の潔斎場。だが、明日起きうるという未来を、母であり現在の神官である王妃は夢に視ていないという。予見できない、不気味な未来。だが、小狼は国王に、その現場に自ら赴きたいと提案する。藤隆は、やや考える。小狼の存在は、本来玖楼国の「理」では説明できないこと。そして潔斎場である水場もまた小狼の存在を許容したこと。だが、彼には元の世界で彼を待つ家族がいる。万一の事態もあり得る以上、藤隆は彼に無理を強いるわけにはいかない…。
しかし、小狼は迷い無く答えた。
「行きます」
彼は、さくらに約束した。今度は、自分がさくらを守る番だ、と。
その覚悟を聞いた藤隆は、決断した。
「…桜を、お願いします」