発動した、呪い。
突き刺さる刃、噴き出す鮮血。ファイが手にした刃は、さくらの心臓を貫いた。頬に浴びた返り血で、彼は我に還る。蘇る、温かな笑顔と共に彼女と過ごした日々。そして、最後に発した彼女の言葉。「たった今これから、自分を一番大切にすると約束してください−」。
インフィニティとセレス国、二つの創られた存在の中に封印されていた羽根。その中に記憶と共に閉じこめられていたのは、彼女の魔力だった。2つの羽根が彼女の手に戻れば、小狼により魔力の半分を奪われたファイを上回る力となる。「呪い」は、彼より強い魔力を持つ者が現れた時に発動する。彼女は、夢見でその事を知っていたのかもしれない。
解けない、呪い。その現実を前に、彼を堰き止めてきた物がついに決壊した。天を割き、地を砕く彼の咆哮。絶望に覆い尽くされた瞳は、全てが鉛色に塗りつぶされた少年時代のそれと一致していた。暴走する力を前に、なす術がない黒鋼と『小狼』。それを抑えることができたのは、先程命を絶たれたはずの少女が差し伸べた手だった。
インフィニティ、セレス、さくらが望んだもう一つの世界。次元を越える力を持つ、対なる存在。そして、「神の愛娘」と称された彼女の強運。これらが重なったとき、一つの奇蹟が生まれる。彼女の「命」は、魂として躯と放ち分かたれたのだった。
ファイに触れた彼女は、彼を宥めるように抱き留め、そしてこう言った。
「忘れないで。…これからも、未来は変えられる。」
彼女はそのまま残る二人の方に振り向き、後事を託すや、インフィニティの機械人形に誘われるままに一人異世界へ旅立っていった−。