トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.123−離れる心

 放たれた緋炎の魔法剣。その威力に抗しきれず、崩れゆく都庁。
 かろうじて立つことが出来た「真の」小狼は、もう一人の少年に向けて言い放つ。
 「…おれがおまえに心の半分を渡したとき、『鏡』越しにおまえに言ったな。右目の封印が解けておれの心がおまえから離れるまでに、おれのじゃないおまえ自身の心が産まれることにおれは賭けると。けれど、時が過ぎても間に合わず、創ったものが強いるままにただ暴走を続けるのなら…、おれがおまえを、消すと。」
 希望が潰えたことへのいらだち、もどかしさ、そして叶わぬ未来に賭けてしまった己への責任。それらを背負い込んだ少年が選んだのは、血で血を洗う「対決」だった。陰陽の紋が描かれた魔法陣が現れ、手を組んだ彼は、自身が磨いてきた技を発動する。
 「雷帝招来!」
 壁にたたきつけられた、写身の少年。形勢、逆転である。右手に握った中国式の剣が、その喉首を貫こうとしたその時、少年の耳に、少女の悲痛な叫び声が飛び込んだ。
 一瞬の油断を、写身の少年は見逃さなかった。手にした剣で対峙する相手の右脚を貫くや、少女の元へと歩み寄る。そして、彼女を包み込んでいた『覆い』を切り裂くや、へたり込む彼女を見下ろした。
 その状況を見ていた神威は、彼が守る昴流にも危険が及ぶことを察し、再度鋭き爪で写身の少年を襲う。しかし、そこに届く昴流の声。それを聞いた少年はその刃を留め、聞こえぬ少年は声の出所を突き止め、刃で切り裂く。
 現れた、羽根。そして、その羽根が意味することを知る少女。
 「…いや…。待って…。」
 届かぬ声、届かぬ想い。
 少女の元へ還る羽根。涙に暮れる少女。そんな少女を抱えながら、少年は凍った瞳のまま呟いた。
 「羽根は取り戻す。…必ず。」