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Chapitre.204−重なり合う願い

 選択。
 あの時取れなかった手を、取るために。
 巻き戻した時間を、進める事を。
 侑子は、知っていた。小狼がこの分岐点に至るまでの道を歩めたのは、もう一人の小狼とも言える四月一日(わたぬき)が大きな対価を支払ったためだということを。そして、小狼もまた、四月一日に「歪まぬ道」を切り開くため、大きな犠牲と引換にしたことを。
 二人の願いが、互いの二人の願いとなる。
 そして、時が満ちる。最後の、選択をする刻が。
 いま、小狼達が立つ、玖楼国の遺跡。その時間は、ずっと止まったままである。胸に、脳裏に、その両眼に焼き付いた、最大の絶望と後悔が切り取られた時間。水場の中に、足を踏み入れる小狼。その後ろから、付いてくるファイと小狼。歩を進めると、やがて3人の眼前に現れる。黒き翼が放つ負の力に飲み込まれようとする、さくらの姿を。
 …もう少しで、おれが時間を巻き戻す事を決めたのと同じ時間になる。
 小狼は、語る。その日は、さくらの誕生日であると同時に、彼自身の誕生日でもあった。
 彼は想い出す。あの日、彼自身がさくらと、そしてもうひとりの彼の瞳を通して出会った彼女と、交わした約束。二人で毎年誕生日をお祝いして、いっぱい素敵な思い出を作ろうね、と。その約束を、叶えるためにここまで歩んできた事を。
 眼前に、確かに存在するさくら。
 しかし、時計の針を進めるためには、もう一つの決着を付ける必要があった。
 強大な魔力を右目に秘め、もう一人の小狼。
 緋炎を左手に手にしたまま、遺跡の中に彼は立っていた。
 避けられない、邂逅。
 それが意味することは、まさしく彼の両腕から拭う事が出来ない血の痕と同義であった。