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Chapitre.202−歪んだ願い

 小狼の願い、それは時間を巻き戻す事。禁忌であるべき一線を越えた結果、生み出されたのが「在るべきでない者」の誕生だった。小狼が対価に支払った関係性を埋めるため、小狼が元いた位置を埋めるために生まれたの存在。それが、後に「四月一日君尋」と呼ばれる少年だった。
 歪んだ願いが生んだ、歪んだ存在−。蔑むような目で少年を見る飛王に、侑子は言い放つ。
 「まだ、未来は決まっていない−。」
 侑子はさらに続ける。飛王がいかに強大な魔力を持とうと、飛王がいかに多くの人間の生き筋を変えようと、失った命を蘇らせるという願いは叶わない、と。
 飛王もまた、知っていた。その願いが、かつてクロウ・リードですら完全に叶える事が出来なかったことを。それでも、彼は願う。己の願いに他者の願いを重ね、願った者にいかなる不幸が訪れようと。
 そしてこの日、野望は一つの形となる。飛王の手に、ひとつのものを、ふたつにするという術を修めることを。小狼は、悔やんだ。巨悪の一端に、己も加わってしまった事を。そして、彼の身近な人たちを、彼が犯した咎の報いに巻き込む事を…。
 それでも、侑子の視線は異なる未来を見据えていた。たとえ彼が巻き戻した時間が産み出した存在であっても、彼には彼だけの未来があることを。それゆえ、彼女はあらゆる放言に耳を貸さず、飛王に言い放つ。
 「この子がこれから過ごす時間と人たちが、この子を留め生かすわ。」
 
 侑子の言葉とともに、少年が覚醒する。
 はじめて彼が目にするのは、彼と同じ年端の少年が、次元の彼方へと取り込まれていく光景。そして、はじめて彼が聞いた言葉は、渾身の力を込めて少年が叫んだものだった。
「……消え……るな…!」
 このあと対価として異次元へ幽閉されることとなる小狼と、四月一日。それが、二人の邂逅だった。