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第13話−まぼろしのオトギ

 次元を超えた先は、雪国だった。
 その世界には、ある昔話が語り継がれていた。
−昔、北の街の外れの城に、金色の美しい髪をしたお姫様がいた。ある日のこと、その姫の元に1羽の鳥が飛んできて、輝く羽根を1枚渡して、こういった。
「あなたに、不思議なチカラをあげましょう。」
その後、王と后が急逝し、姫が城の主となった。そして、その羽根に導かれるように子ども達が夜な夜な集まり、二度と戻らなかった、という…。−
 それは300年も前のことだが、再び北の街で同じ出来事が起きているらしい。
 −不思議な力を持つ羽根…。
 サクラの記憶の欠片と同じだ、と感じた4人は、北の街・スピリットへ出かける。
 
 猜疑心に飲み込まれたスピリットの街。彼らが近づくと、家々の窓が、扉が閉ざされていく。次に彼らを待ち受けるのは…街の警備団だった。「おまえ達は、何者だ。」張りつめた空気の中だが、小狼は思いもよらぬ答えを返す。
「おれたちは、本を書いているんです。」
 それでもなお疑う警備団。そこに現れたのは、スピリットの町医者、カイル先生だった。彼らを来客として家に招き入れるばかりでなく、小狼達を泊めることも提案する。
 収まりがつかない自警団は、町長と大地主であるグロサムを連れてカイルの元へ訪れる。なおも小狼達に疑いの目を向けるグロサムは、4人を夜、外へ出さないようきつく言い残す。
 
 金の髪の姫君の伝説…。その伝説が示すように、スピリットではすでに20人もの子ども達が消えたという。本当に、金の髪の姫君が関わっているのか…。ファイと小狼が語り合うその時、サクラが不意に意識を失う。まだ記憶の欠片が揃わないための、副作用らしい。
 サクラが再び目を覚ましたのは、夜も更けた頃だった。しんしんと雪が降り積もる窓の外で、カラスが奇怪な鳴き声を上げる。窓の外を見ると…、そこには金色の長い髪をした、気品ある女性の姿があった。彼女はサクラの方を振り向くや、何かを訴えるような瞳を差し向け、そして消えていった。
 
 翌朝。街は騒ぎであふれていた。またも子ども達が姿を消したのだ。
 「…アレは、夢じゃない?」伝説の姫君の話と、夕べ見た女性の姿がオーバーラップしたサクラ。その言葉に、町人たちはさらにざわめきだす。
 金の髪の姫。歴史書に語られた彼女の存在だが、その姿を見たのはサクラが初めてだという。
 カイルからエメロードの伝説について記された書物を借り、古城へとやってきた小狼達。古城の前には、急な流れの川が行く手を阻む。城へと通じる一本の橋はすでに崩れ落ち、そこへ渡る術はない。道を探し出そうとする彼ら。だが、それは彼らだけではなかった。鞍上から同じく城を見つめる男が、もう一人。それは、小狼達に対し鋭い眼差しを投げかける地主、グロサムだった。
 小さな考古学者である小狼は、こう考えている。歴史書は、事実に近づくための一手段であると共に、常に真実ばかりをつづるものではないということを。しかし、信念を持ち、人を信じる気持ちを持つ彼。町人に疑いの目をかけられ、不安が募るサクラに、「オレは、姫を信じますから。」との言葉を向ける。見えない未来を、信じるチカラ。その力強くも優しい眼差しに、サクラの心に積もりだした雪が、溶かされる。
 だが…、町人の目は依然として厳しい。周囲からの強い圧力を受けたカイルはその夜、彼らの部屋に錠をおろす。
 再び、闇夜。降り続く雪の中、サクラは再び金の髪の姫の姿を目にする。さらには、寒空の下、うつろな瞳で何処かへ行こうとする子ども達。急ぎ、仲間達に告げようとするサクラだが、部屋は鍵がかけられていて言葉を伝えることができない。思い立った彼女は、単身窓から身を投じ、子ども達と姫の後ろ姿を追う。
 行き着いた先は、やはり昼間来た古城だった。しかし、一つだけ、大きな違いがあった。行く手を阻んでいた川が、ぴたりと流れを止めていたのだ。水の上を歩いて渡る子ども達。その姿を見ながら、サクラの方を振り返る姫。その視線を受けるや、サクラは意識を失ってしまう。
 姫君は、こんな言葉を言い残す。
 「あなたが来るのをずっと待っていました。…長い長い間、ずっと。」
 サクラが消えたカイルの診療所の前には、その前の日に増して多くの自警団の姿があった。サクラが姿を消したことを知るや、ついに武力行使に出た彼ら。小狼達は、自らの腕で「身」を守るとともに、彼らを前に宣言する。子ども達がなぜ、どこへ消えたのか探すことを。そして、小狼にとって、もっとも「かけがえのない人」を連れ戻すことを。