トップページデータノート「XXXHOLiC」ストーリー紹介(コミック版)

戻 第16回

《xxxHOLiC・戻》第16回
  ヤングマガジン:2013年41号:2013.09.09.月.発売
 
突然の光に,君尋と静は,思わず手をかざす。まわりの樹皮がめくれ上がってさらに広がった裂け目から,まぶしいばかりの光が解き放たれた。
光の洪水がおさまっとき,そこには,日輪の象徴とおぼしき円板を額にいだいた巨大な犬のようなものが,2人を見下ろしていた。その体そして裂け目も,光で輝いている。
 
{夜雀の頼み と言ったな}{我を救えるか 子等(ら)よ}
やはり,頭の中に語りかけてくる。
「そうできれば と思っています」君尋
「けど 何をすればいいのか…」
そのとき,宙をただよっていた「とりがた」が,一瞬でちぎれて散った。
「先遣(あれ)がないと帰れねぇだろうな」と,静。
「ってことは‥ 願いを叶えるしかない,か」
そう言うと,君尋は,風呂敷包みの結び目をつかみ,相方のほうに突き出した。無言で,もともと持っていたほうの包みを右手でかかえ,左手の平に受け取る静。
君尋は,寝そべって前足を組み首をもたげている,その間近に歩み寄る。
「その為に まず 貴方の事を教えてください」
{夜雀は 何の先触れだ}
「…山狗(ヤマイヌ)」
{そうだ 我は山狗を統べる}
{山狗は山を守るもの その頂点であるなら神にも等しい筈}
「その貴方が己で解決出来ない程の事とは」「何ですか」
{山狗とは 山の気(キ)そのものだ 山に宿る気が凝(コゴ)り 形を,成(ナ)し 山狗と生(ナ)る}
この山の気を感じたか,と問われ,君尋は答えた。
「…いいえ 山に登った実感もありませんでした」
それはどこに連れていかれるかわからず集中できなかったからと,釈明したが,それだけ山の気は薄れていると説き明かされて,君尋の表情も,かげってきた。
{ひとは山に立ち入る時 平らな地とは異なる気を感じ それを恐れ,その恐れの先に 己では御する事の出来ない敬うべきものをみる}
{敬いは,信仰を産み 信仰は,その対象となるものに力を与える}{力を与えられた敬われるものは 敬うものを守る 守られたひとは 更に守ってくれたものを敬う}
{そうやって 古来から ひとと,我々は共にあった}
今,この山だけでなく,どの森でも泉でも,敬うものだと思っているはずの社(やしろ)でさえ,敬うひとは無に等しい。そう話す。
ほとんどのひとが尊ぶべきもの敬うべきものとの距離を置いて久しいのは,その通りだと思う,と君尋は応じる。そして,言い足した。
「でも,おれは」
「貴方を怖いと思います」
{……}
「大きいからとか狼に似た姿だからとかじゃない」「自分とは違う貴方という存在を 正直に怖いと思います」
「確かに,山の気は感じられなかったけれど 俺には 今,貴方がとても怖いです」
{…成る程}{清浄な気とその力 確かに,幾ばくかの救いにはなるやも知れぬな}
{敬うものへの必要なものは 敬う心と もうひとつ}
「もうひとつ…?」
そのとき,背中に“とん”と押し当てられたのは,静に預けた風呂敷包み。彼は,左手で支え持って君尋に見せると,言った。
「供物(クモツ),だろ」