玖楼国への、旅立ち。それは母の夢見がきっかけだった。次元も理も異なる国へと向かう少年に、父は自らも父から受け継いだ愛刀と、自らの名を差し出した。
「その剣を使う日が来るのか?」
…少年の問いに、父は無言で答えた。
玖楼国の朝。父から託された剣を手に眺める『小狼』。
「城内で剣を持ち出すとは、いい度胸だな」
不意に現れたさくらの兄・桃矢と雪兎。「切られても、文句は言えないな。」
吃驚する『小狼』。すぐに非を認めて、頭を下げる。
「その剣は君の中に在ったものだね。」
一連の様子を見ていた雪兎。彼は『小狼』の中に宿る力を見抜き、そしてこう言った。
「桜姫と、仲良くしてあげてね。」
面白くないのは、兄・桃矢。
「…力があっても、ガキなのには変わりないけどな。」
悪態をついて、場にひんやりとした空気を持ち込む。
そこに春風のように現れた妹・さくら。『小狼』と桃矢の間に流れる空気を読むや、二人の間に立ち入って兄にすかさず切り返す。そして…
「勝った!」
満面の笑みを浮かべ、『小狼』とともに城外へ駆けていくさくら。二人の間には、朝の陽気よりも晴れ晴れとした空気が流れていた。
「さっきね」
さくらは切り出す。
「走るとき、ほんとは手を繋ぎたかったの」
潔斎中で他人に触れることは禁忌とされているさくら。だから、潔斎が明けて『小狼』が発つまでに時間があれば、今度は手を繋いで走ろうね、とにっこり話す。
「ああ。」
『小狼』もまた、さくらの誘いに答える。そして、彼女の前に、右手の小指を差し出す。
「おれのいる世界では、こうやって約束するんだ。…本当は小指どうしを絡ませるんだけど…。」
…宙で交差する、指切りの契り。その「約束の日」に彼が選ぶ決断が、未来を左右する…!