トップページデータノートストーリー紹介【ツバサ−RESERVoir CHRoNiCLE−】

Chapitre.56−男と女

 翌朝。好天に恵まれた紗羅の国。昨夜は思いがけぬ強震に見舞われたにも関わらず宴を続け、一座の踊り子達の多くが二日酔いでつぶれているにもかかわらず、小狼とさくらの二人は座の軒先の掃除に勤しんでいた。
 さくらは地震を通じて過去の記憶をよみがえらせていた。さくらの居城から見える砂漠の遺跡。そこは、一年のほとんどを砂嵐で覆い隠す。そして、時に玖楼国が地震に見舞われる。姿を現したそれが、まるで砂漠から飛び立とうともがいているかのごとく。
 小狼の記憶とすりあわせるうちに、さくらは自分が失った過去を取り戻せつつあるのではないかとの思いで明るい表情になる。が、桜都国で記憶の糸を探ろうとするうちに「代価として差し出したものに触れる」という禁忌に触れ、意識を失った彼女のことを思いやり、せつない笑顔を向ける小狼。
 そこに姿を現した鈴蘭。酒に強い彼女に、二日酔いという言葉は無縁のようだ。と、そこに怒鳴り込んで来たのは、陣社の氏子達。地震は鈴蘭一座が持つ阿修羅像が巻き起こしたものと思いこむ彼ら。武器を手に彼女たちに襲いかかるところに、すかさず鈴蘭が割ってはいる。
「このあたしの目の黒いうちは!指一本ふれさしゃあしないよ!!」
しかし、氏子達だって黙っていない。
「怪異を呼ぶ阿修羅像を本尊にしてる一座に身内も何もあるかい!蒼石様もなんでこんな奴らをおいださねぇんだ!」
 蒼石の名を出した瞬間、表情が凍る鈴蘭。その時、彼女の不意をつき氏子達が襲いかかる。
彼女の身を守り、氏子達を文字通り「一蹴」したのはもちろん小狼。礼を言う鈴蘭、だが、彼女の表情には相変わらず影を残したままだった…。